脂質異常症は長年の蓄積により動脈硬化を進行させますが、早期に介入することで心筋梗塞や脳梗塞などの発症の予防につながります。また、脂質異常症を指摘されたときに症状がなくても、放置すると動脈硬化が進行し、やがて命を脅かす重篤な病気が生じる可能性があります。まずは「血中脂質」と「動脈硬化」の関係を整理しておきましょう。血中脂質と動脈硬化の関係血液中のコレステロールや中性脂肪(トリグリセライド)といった脂質成分は、過剰になると血管壁に蓄積し、動脈を徐々に硬く・狭くしていきます動脈硬化巣のプラーク内部にはコレステロールが沈着しており、このコレステロールの多くはLDLに由来することが明らかになっています。また血液中のLDL-Cを低下させることで動脈硬化性疾患が減少することも確認されています動脈硬化性疾患は総死亡の約22%を占め、発症すると日常生活の質が低下する可能性もある重篤な病気です動脈硬化が引き起こす主な疾患動脈硬化が進行することで、次のような重篤な疾患のリスクが高まります。心筋梗塞・狭心症(冠動脈が狭くなることで心臓への血流が不足する状態)脳梗塞・アテローム血栓性脳梗塞(脳の血管が詰まることで神経障害が起こる状態)末梢動脈疾患(下肢の動脈が狭くなることで歩行障害が生じる状態)なぜ40〜60代が特に注意すべきか加齢とともに血管は自然に硬くなりやすく、40代以降はその進行が加速します加齢・男性・冠動脈疾患の家族歴・糖尿病・高血圧・喫煙・脂質異常症などが動脈硬化性疾患の危険因子であり、脂質異常症はこれらの危険因子のなかでも非常に重要な因子であることがさまざまな研究で示されています閉経後の女性はエストロゲンの保護作用が失われ、LDLコレステロールが上昇しやすくなるため注意が必要です血中脂質検査で調べる4つの指標とは?血中脂質検査では複数の項目を総合的に評価します。どの数値が何を意味するのかを知っておくと、検査結果票をより深く読み解くことができます。脂質異常症の診断には、LDLコレステロール・トリグリセライド・Non-HDLコレステロール・HDLコレステロールが用いられますLDLコレステロール(悪玉コレステロール)悪玉コレステロールとも呼ばれ、増えすぎると血管の壁に溜まって動脈硬化を起こし、脳梗塞や心筋梗塞の原因となります日本人にはHDL-Cが高値の人も少なくないため、総コレステロール(TC)が高くてもLDL-Cは正常である人がしばしば認められます。動脈硬化を的確に予防するためには、TCよりもLDL-Cに注目することが重要です診断基準値は140mg/dL以上が高LDL-C血症、130〜139mg/dLが境界域とされていますHDLコレステロール(善玉コレステロール)善玉コレステロールと呼ばれ、増えすぎたLDLコレステロールと血管の壁に溜まったコレステロールを肝臓へ戻す役割をしています診断基準値は40mg/dL未満が低HDL-C血症とされており、値が低いほど動脈硬化リスクが高まりますトリグリセライド(中性脂肪)食事で摂取したエネルギーが余った場合に合成・蓄積される脂肪で、過剰になると動脈硬化を促進します血清中のTG値は食事内容や食後時間によって大きく変動するため、長らく空腹時の値での評価がなされてきました。しかし疫学研究や脂肪負荷試験の結果から、食後高TG血症が動脈硬化性疾患と関連することがわかっていますそのため、空腹時150mg/dL以上、非空腹時175mg/dL以上が診断基準とされていますNon-HDLコレステロールNon-HDL-Cは「総コレステロール値-HDL-C値」で算出され、TGやレムナント(血中リポタンパクの代謝途中産物)など動脈硬化惹起性の脂質成分全体を反映する指標として臨床的意義が高く、計算も容易で食事にも影響されないことから非空腹時採血でも使いやすいという特長があります基準値は170mg/dL以上が高non-HDL-C血症とされています検査値の読み方と診断の基本ルール健診や血液検査で「基準値オーバー」と指摘されたとき、多くの方が「すぐに薬を飲まないといけないの?」と不安になります。しかし、診断基準値はあくまでもスクリーニングのための目安です。脂質異常症の診断基準は「動脈硬化発症リスクを判断するためのスクリーニング値であり、治療開始のための基準値ではない」ことは、ぜひ理解しておいていただきたい点ですリスク評価のフローチャートと3つのカテゴリー動脈硬化性疾患リスクの評価では、まず「一次予防」か「二次予防」かで層別化します。一次予防該当者でも、「糖尿病」「慢性腎臓病(CKD)」「末梢動脈疾患(PAD)」を一つでも有する場合は、それのみで「高リスク群」に分類されます。それ以外の方については、久山町研究スコアを用いて今後10年間の動脈硬化性疾患の発症リスクを算出し、低・中・高の3カテゴリーに分けて管理目標値を設定します。低リスク:LDL-C管理目標値 160mg/dL未満中リスク:LDL-C管理目標値 140mg/dL未満高リスク(一次予防):LDL-C管理目標値 120mg/dL未満二次予防:冠動脈疾患に加えてアテローム血栓性脳梗塞も含む二次予防では、LDL-Cの管理目標値は100mg/dL未満とされています。さらに「急性冠症候群」「家族性高コレステロール血症」「糖尿病」「冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞の合併」の場合は70mg/dL未満が目標値です 個人によって基礎疾患も家族歴も異なるため、友人が大丈夫だから自分も大丈夫だと思い込まず、個々のリスクを鑑み、投薬時期や量を判断しなければなりません。数値は「一点」ではなく「複合リスク」で判断する当院では、単一の数値だけで判断するのではなく、以下のような複合的な視点で状態を評価しています。喫煙習慣・高血圧・糖尿病・肥満など他の生活習慣病の有無家族に心筋梗塞や脳梗塞を起こした方がいるかどうか(家族歴)年齢・性別・閉経の有無「境界域」の方こそ早めに相談を境界域(LDL-C 120〜139mg/dL)に該当する場合、他の危険因子が重なるとリスクが大幅に高まりますスクリーニングで境界域高LDL-C血症・境界域non-HDL-C血症を示した場合は、高リスク病態がないか検討し、治療の必要性を考慮することが求められています正確な検査結果を得るための受診前の注意点血中脂質検査は、受診前の食事・飲酒・運動状況によって数値が大きく変動します。正確な結果を得るためには、いくつかの準備が必要です。食事・飲酒に関するルール一般的に空腹時採血とは、夕食後12時間以上絶食した状態で採血することを意味します。より精度の高い検査をするために、検査前日の食事は21時までに済ませ、検査当日の朝食は控えましょう。中性脂肪(TG)も食事の影響を受けます。前回と比較して大幅に中性脂肪が上昇した患者さんに聞いてみると、前日にうなぎや焼肉などの脂質が多いものを食べていたということが多いです。中性脂肪は検査日だけでなく、前日も脂質の多い食事は避けていただくと、本来の値を確認しやすくなります。食事をすると乳糜(血清中に高濃度の脂質が含まれている状態で白く濁る現象)すると正確な中性脂肪の測定ができないことがあります。中性脂肪は食事や運動によって影響を受けやすく、糖質やアルコールの過剰摂取によって上昇します。検査前日は飲酒を控えて、当日は空腹時で検査を受けましょう。お薬を服用している方へ脂質降下薬やその他の薬を服用している方は、検査前に服用を中止すべきかどうか、必ず主治医に確認してください降圧薬・糖尿病薬については原則として通常通り服用いただくことが多いですが、個々の状況によって異なります「随時採血」でも評価できる場合がある近年は、動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版では、脂質異常症診断基準に随時(非空腹時)TG値 175mg/dL以上が加わりました。空腹での来院が難しい方でも、担当医と相談のうえで随時採血として評価することが可能なケースがあります。ただし、非常に高い値の方や精密な評価が必要な方は空腹時採血が推奨されます。動脈硬化リスクを高める生活習慣の注意点血中脂質の値は、遺伝的素因に加えて、日々の生活習慣によって大きく左右されます。「検査値が悪い=すぐ薬」ではなく、まず生活習慣の見直しが治療の根幹となります。食生活における注意点LDLコレステロールが高い場合は飽和脂肪酸の量、中性脂肪(トリグリセライド)が高い場合は糖質(主に間食)とアルコールに気を付けることが大切です。飽和脂肪酸は肉の脂身やバターなどに多く含まれていますEPAやDHAなどのn-3系多価不飽和脂肪酸は高トリグリセライド血症を改善し、冠動脈疾患発症の抑制が期待できます。青魚や脂が多い魚に多く含まれていますので、積極的に魚を食べるとよいでしょう緑黄色野菜を含めた野菜・海藻・豆および大豆製品から食物繊維をしっかり摂取することで血中脂質が改善され、心血管疾患や脳血管疾患の発症リスクが低くなります食塩の摂りすぎは高血圧を招き、動脈硬化をさらに進行させます。食塩摂取の目安は1日6g未満が望ましいとされています運動療法における注意点脂質異常症の改善には、中等度の強度の有酸素運動を毎日30分以上継続することが推奨されていますウォーキング・スイミング・軽いジョギング・サイクリングなどが適しています血中脂質レベルは1回の運動では影響を受けません。そのため血中脂質レベルに好影響を与えるには数ヶ月以上の長期的な運動療法が必要となります急激な運動は体に負荷をかけるため、まずは10分のウォーキングから始め、無理なく習慣化することが大切です喫煙・飲酒・肥満への対処動脈硬化性疾患予防のための生活習慣の改善には、禁煙(受動喫煙の防止も含む)・飲酒(アルコール摂取量の制限)・肥満およびメタボリックシンドローム対策・食事療法・運動療法が挙げられています喫煙はHDLコレステロールを低下させ、血管を傷つけて動脈硬化を直接的に進行させます。禁煙は最も効果的な動脈硬化予防策の一つです脂質異常症の対処法(食事・運動・薬物療法)脂質異常症の管理は、段階的に進めていくことが基本です。「生活習慣の改善」→「それでも改善しない場合の薬物療法」という順番で考えます。食事療法・運動療法を3〜6か月続ける脂質異常症の治療は通常、食事療法と運動療法から開始します。薬物療法は、食事療法と運動療法を行っても脂質管理の目標値が達成できない場合、もしくは持っている危険因子が多く動脈硬化性疾患を起こすリスクが高い場合に開始されます生活習慣の改善は「3〜6か月間」継続して効果を評価するのが一般的です。短期間で結果を焦らず、継続することを優先してください薬物療法が必要となる場合食事・運動療法を十分に行っても目標値に届かない場合や、心血管リスクが非常に高い場合には薬物療法を検討します。代表的な薬剤は以下の通りです。スタチン系薬:肝臓でのLDLコレステロール合成を抑えるもっとも基本的な薬剤ですエゼチミブ:小腸でのコレステロール吸収を抑制する薬剤で、スタチンと併用されることもありますフィブラート系薬:中性脂肪を下げ、HDLコレステロールを上昇させる作用がありますEPA製剤(n-3系脂肪酸製剤):中性脂肪を低下させ、心血管イベントの抑制が期待されます薬物療法を始めたあとの注意事項薬を飲んで数値が改善しても、自己判断で服薬をやめないことが大切です。薬を飲んで一時的に検査の値が良くなったとしても、脂質異常症が完全に治ったわけではないため、医師からの指示をしっかりと聞くようにしましょう服薬中も生活習慣の改善を継続することが、薬の量を最小限に抑えるうえでも重要ですまとめ(総括)動脈硬化のリスクに備えるための血中脂質検査は、単に「数値が高いかどうか」を確認するだけではありません。ここまでお伝えした内容を振り返ります。血液中の脂質であるLDLコレステロール・HDLコレステロール・中性脂肪(トリグリセライド)は、動脈硬化の進展に大きな影響を与えることが知られており、動脈硬化性疾患予防において脂質関連の指標は大変重要です診断基準値は「スクリーニングのための目安」であり、治療の要否は個々のリスクを総合的に評価して決まります正確な検査値を得るためには、前日からの食事・飲酒の管理が必要です脂質異常症治療の目的はあくまで動脈硬化性疾患の予防であり、他の危険因子にも包括的に介入しながら、生活習慣改善を基盤とした治療を展開することが求められます「少し高いだけだから」「症状がないから」と後回しにせず、40〜60代のうちに一度きちんと評価を受けることが、将来の心筋梗塞・脳梗塞予防の第一歩となります当院では、脂質異常症の診断・管理に際して、数値だけでなく患者さん一人ひとりのライフスタイルや背景を丁寧に聞き取り、無理のない方針をご提案しています。「数値が気になっている」「健診の結果の意味を詳しく知りたい」という方も、お気軽にご相談ください。当院について当院は、京都市南区に位置するかんだクリニックです。内科・消化器内科を標榜し、地域の皆さまの「かかりつけ医」として、生活習慣病の管理から消化器疾患の診療まで幅広く対応しています。当院の血中脂質・動脈硬化リスク外来の特長血中脂質検査(LDL・HDL・中性脂肪・Non-HDLコレステロール)を含む包括的な血液検査を行います日本動脈硬化学会のガイドラインに基づいた個別リスク評価を実施しています検査結果をわかりやすくご説明し、生活習慣の見直しから薬物療法まで、患者さんのご状況に合わせた管理方針をご提案します食事・運動に関する具体的なアドバイスを、診療の中でできる範囲でお伝えしていますこんな方はぜひご相談ください健診でコレステロールや中性脂肪を指摘されたが、受診を先延ばしにしている方家族に心筋梗塞・脳梗塞の既往がある方高血圧・糖尿病と合わせて脂質もケアしたい方「薬を飲み始めるべきか、まだ生活習慣改善で様子を見るべきか」を相談したい方受診の流れとアクセス当院では初診の方も丁寧に対応しています。まずはお電話またはWebからご予約のうえ、お気軽にご来院ください。健診結果票をお持ちいただけると、よりスムーズに診察を進めることができます。クリニックの詳細・診療時間・アクセスは、公式サイト(https://www.kanda-clinic.jp/)をご確認ください。