肝臓の主な役割肝臓を正しく理解するために、まずその働きを知っておきましょう。肝臓の主な役割は大きく3つに集約されます。食事から吸収した栄養素を、からだが使える形に変換してエネルギーや組織の材料を供給するアルコール・薬剤・有害物質を分解・解毒し、体外へ排出する準備を整える脂肪の消化・吸収を助ける胆汁を合成し、胆管を通じて腸へ送り出すじつに500以上もの働きを黙々とこなしている働き者が肝臓とも言われており、私たちの生命維持に欠かせない臓器です。「沈黙の臓器」と呼ばれる理由肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、機能の80%が失われるまでほとんど症状が現れません。肝臓が大きな臓器であるがゆえに、一部に損傷が起きても残りの健全な部分が補ってしまうからです。炎症やがんがあっても、ほとんど自覚症状がないことが多く、健康診断やほかの病気の検査のときに、たまたま肝臓の異常を指摘されることも少なくありません。自覚症状を待ってはいけない理由肝機能障害に気づかず放置してしまうと症状が悪化し、慢性肝炎となり、さらに悪化すると肝硬変になります。肝硬変は肝不全や肝臓がんに進行し、命を脅かす可能性もあります。「症状がないから大丈夫」という安心感は、残念ながら肝臓については成立しません。健康診断で指摘を受けた段階こそ、最も介入しやすい好機です。肝機能の検査値(AST・ALT・γ-GTP)とは?健康診断の結果表には、肝機能を示す数値がいくつか並んでいます。それぞれが何を意味するのか整理しましょう。AST(GOT):肝臓・心臓・筋肉に多く含まれる酵素。肝細胞が傷つくと血液中に流れ出すALT(GPT):ほぼ肝臓にのみ含まれる酵素。ALTが高い場合は、肝臓の問題である可能性が高いγ-GTP:胆道から分泌される酵素で、肝臓の解毒作用に関与。アルコールに敏感に反応する2025年の日本人間ドック・予防医療学会の判定区分によると、AST・ALTは「30以下」、γ-GTPは「50以下」なら正常とされています。数値の「組み合わせ」で見えてくること単に数値が高いというだけでなく、どの項目がどのくらい上昇しているかを組み合わせて読み解くことが大切です。γ-GTPとASTが優位に高い(AST>ALT)場合はアルコール性の肝障害が強く疑われ、ALTが優位に高い(ALT>AST)場合は脂肪肝やウイルス性肝炎などが疑われます。γ-GTPだけが高い場合は、飲酒初期の影響や薬剤性肝障害、症状の出ていない胆道系の病気が隠れている可能性があります。「炎症のスピード」と「今どこにいるか」は別の話ASTやALTは肝臓の現在の炎症の強さを示します。数値が高いほど、肝硬変へと向かうスピードが速いことを意味します。しかし、これだけでは肝臓がどの程度すでにダメージを受けているかはわかりません。ASTやALT・γ-GTPが正常だったとしても「肝臓に現在炎症はない」ことを示すだけで「肝臓の状態が正常である」ことを示すわけではないため、画像検査を合わせて評価することが重要です。肝硬変も進行すると壊れる肝細胞が減って、逆にASTやALTの数値が下がることもあります。エコー検査で「異常がある」と言われたら?基本のしくみと所見の見方腹部エコー(超音波)検査は、お腹の表面に専用のプローブをあてて超音波を発し、臓器から返ってくる反射波を画像として映し出す検査です。放射線による被ばくの心配がなく、身体への負担が少ない安全な検査のため、妊娠中の方や高齢者も安心して受けることができます。対象とする臓器は、肝臓、胆のう、胆管、膵臓、腎臓、脾臓、腹部大動脈です。各臓器の腫瘍をはじめとして、結石、脂肪肝等の生活習慣病と関連が強い所見も発見できます。脂肪肝はエコーでどう見える?肝臓に脂肪がたまると肝臓が白っぽく見え、脂肪が増えるほど深部や血管が見えにくくなります。エコーでの見え方から「軽度・中等度・高度」などの目安をつけます。脂肪肝では血液検査(AST、ALT、γ-GTPなど)が高値の場合もありますが、正常値のこともあり、血液検査だけでは見落とされることがあります。エコー検査はこうした見落としを防ぐ上でも重要な役割を果たします。エコーでわかること・わからないことエコーで確認できる主な所見は、脂肪肝の程度(脂肪が溜まった肝臓は白っぽく映る)、肝臓の形や大きさ、肝硬変の兆候(表面の凹凸)、肝臓がん・肝血管腫・肝のう胞などの腫瘤の有無、そして胆のう・胆管・膵臓・腎臓など周囲臓器の異常などです。一方で、骨とガス(空気やおなら)にぶつかると超音波が減衰・反射を起こし画像が作れなくなるため、これらが障害となる部位は観察しにくいという特性もあります。エコーで確認しきれない場合には、CTやMRIなど追加の画像検査をご提案することもあります。肝機能異常・エコー異常の原因となる主な病気とは?肝機能の数値やエコーに異常が出る原因はさまざまです。「お酒のせいだけ」とは限りません。脂肪肝(アルコール性・非アルコール性)ウイルス性肝炎(B型・C型など)アルコール性肝炎・肝障害薬剤性肝障害(市販薬・サプリメント含む)自己免疫性肝炎・原発性胆汁性胆管炎(以前は原発性胆汁性肝硬変)胆石・胆嚢炎・胆管炎脂肪肝は「放置してよい病気」ではない健康診断の腹部エコーで「脂肪肝」を指摘される人は増えています。脂肪肝は、肝臓の細胞に中性脂肪がたまっている状態です。一般成人の約2〜3割にみられると報告され、決して珍しくありません。しかし、脂肪肝そのものは症状が出にくい一方で、放置することで肝臓に炎症が起きて肝臓が硬くなっていき、肝硬変や肝がんにつながることがあります。近年は病気の概念も整理されており、代謝の異常を背景とする脂肪肝は「MASLD(代謝機能関連脂肪性肝疾患)」、炎症が強いタイプは「MASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)」と呼ぶようになっています(従来のNAFLD/NASHに相当)。ウイルス性肝炎・薬剤性肝障害なども見逃せない一時的に風邪をひいたり激しい運動をしたりした場合でも、一時的にこれらの数値が上昇することがあります。しかし、B型肝炎やC型肝炎などのウイルス性肝炎、自己免疫性肝炎や原発性胆汁性胆管炎などの自己免疫性肝疾患が原因となっている場合もあるため、「たぶん大丈夫でしょ」と放置せずに精密検査を受けることが勧められます。薬剤性肝障害は、特に自己判断で購入した市販薬やサプリメントなどは、定期的なチェックが行われにくいため、発見が遅れるリスクがあります。普段飲んでいるお薬やサプリメントの情報を受診時に必ずお伝えください。放置するとどうなる?肝臓病が進行した場合の注意点「症状がないから受診しなくていい」という判断は、肝臓病においては特に危険です。脂肪肝 → 肝炎(MASH)→ 肝硬変 → 肝がん、という進行の流れがあること肝硬変になると肝臓の機能が大幅に低下し、治療の選択肢も狭まること肝がんは早期であれば治療の選択肢が広いが、進行するほど困難になること肝硬変・肝がんへの進行リスク肝機能障害を放置すると障害が慢性化し、肝臓が硬くなる「肝硬変」や、命に関わる「肝臓がん」へと進行してしまうリスクがあります。肝細胞がんの発生原因の約80%が、B型・C型肝炎ウイルス感染による慢性肝炎や肝硬変と言われています。一方、近年はアルコール摂取や過食などによる肝障害(アルコール性肝障害や非アルコール性脂肪性肝炎など)が原因で発生する肝細胞がんも増加傾向にあるとされています。定期的な経過観察が命を守る肝炎ウイルス感染による肝硬変や慢性肝炎がある方は特に肝がんのリスクが高く、3〜6ヵ月に一度の超音波(エコー)検査などの定期検査を受けるようにしてください。肝炎や肝硬変がない方も、健康診断で肝機能の異常が指摘されたら、放置せずに必ず精密検査を受けるようにしましょう。精密検査の基本ルール——何をどの順番で調べるか健康診断で異常を指摘されたら、次のステップとして精密検査を受けることが重要です。当院では以下の流れで診療を進めています。問診:飲酒量・食事・運動習慣・服薬歴・家族歴などを丁寧に確認する身体診察:腹部の触診・聴診により肝臓の腫れや圧痛の有無を確認する血液検査:AST・ALT・γ-GTPの再測定に加え、肝炎ウイルスマーカー・自己抗体・ビリルビン・アルブミン・血小板数などを幅広く調べる腹部エコー検査:脂肪の蓄積具合・肝臓の形・硬さ・腫瘤の有無などを画像で直接確認する ※腹部エコーのみで判断が困難な場合やエコー自体が見えにくい方はCTやMRIをお勧めすることもあります。精密検査でまず行うのは血液検査と腹部エコーです。血液検査では、AST、ALT、ALP、γGTPを再測定するだけでなく、肝炎ウイルスマーカーや自己抗体などの特殊な項目を測定します。腹部エコーでは、肝臓や関連臓器を超音波で観察することで、血液検査では検出できない物理的な異常がないかを調べます。Fib-4 indexによる肝線維化の評価近年、AST・ALT・血小板数と年齢から算出する「Fib-4 index(フィブフォー・インデックス)」という指標の有用性が高まっています。肝臓の線維化(肝臓が硬くなっているかどうか)の度合いを数値化した指標で、慢性肝炎や脂肪肝炎の進行の程度、肝硬変への移行の可能性などを知る一助となり、他の検査と合わせて医師が総合的に判断する際に役立ちます。必要に応じてCT・MRI・連携病院への紹介もエコーや血液検査だけでは判断が難しい場合には、CT検査・MRI検査への追加精査、あるいは連携する総合病院への紹介状の作成も対応しています。患者さんが検査の目的や流れをご理解いただけるよう、当院では丁寧にご説明することを大切にしています。肝機能を改善するための生活習慣の対処法精密検査の結果、生活習慣が主な原因と判断された場合には、日常的な行動の見直しが肝臓を守ることに直結します。食事内容の見直し:揚げ物・甘い飲み物・果糖の多い食品を減らし、野菜・海藻・きのこを積極的に取り入れる適度な運動の継続:息が少し弾む程度(速歩き・軽い自転車など)の有酸素運動を習慣化する飲酒量の適正化:週2日以上の休肝日を設け、1日の飲酒量を意識してコントロールする体重管理:急激な減量は避けながら、無理のないペースで目標体重を目指す体重の7%減量が脂肪肝改善の目安体重の7%の減量で脂肪肝は改善すると言われています。急激な減量を避け、無理のないペースで少しずつ取り組むことが大切です。たとえば体重70kgの方であれば約5kgの減量が一つの目安となります。飲酒量の目安を知っておこう厚生労働省が示す「節度ある適度な飲酒」は、1日平均純アルコールで約20g(女性)、約25g(男性)です。これはおおよそビール中瓶1本、日本酒1合、7%缶チューハイ1本(350ml)に相当します。週に2日以上の休肝日を設けることも非常に有効です。また、ウイルス性肝炎が背景にある場合には、生活習慣の改善だけでなく抗ウイルス薬による治療が必要となることもあります。自己判断で「生活習慣だけ改善すれば大丈夫」と決めつけず、必ず医師の診断を受けてください。まとめ(総括)肝臓の異常は、健康診断で見つかった段階こそが最も重要な分岐点です。この記事でお伝えしてきたことを、以下に整理します。肝臓は沈黙の臓器:症状がなくても、内部では静かに病変が進行している可能性がある血液検査だけでは不十分:AST・ALT・γ-GTPは「炎症のスピード」を示すが、現在の肝臓の状態はエコーや追加血液検査で初めて把握できる脂肪肝は生活習慣病の一部:放置すると肝炎→肝硬変→肝がんへと進行しうる。血液検査が正常でもエコーで脂肪肝が指摘されることがあるウイルス性肝炎・薬剤性肝障害も除外が必要:「お酒のせいだけ」とは限らない。精密検査で原因を確かめることが先決精密検査は怖くない:血液検査と腹部エコーが中心で、痛みもなく短時間で受けられる早期発見・早期対応が鍵:脂肪肝や軽い肝炎の段階であれば、生活習慣の立て直しで回復が十分に見込めます。特に思い当たる症状がなくても、検査で異常を指摘されたらすぐ医療機関を受診することをおすすめします。健康診断の結果は、肝臓からのSOSです。「様子をみよう」と先延ばしにせず、どうかこの機会に一度、消化器内科でご相談ください。当院について——京都市南区の内科・消化器内科「かんだクリニック」当院(かんだクリニック)は、京都市南区で内科・消化器内科を中心に診療を行っているクリニックです。健康診断で肝機能の異常を指摘された方、エコー検査で何らかの所見があった方の精密検査・経過観察に、できる限り丁寧かつ迅速に対応しています。当院では以下のような方々のご相談をお受けしています。健康診断でAST・ALT・γ-GTPの異常を指摘され、受診を考えている方腹部エコーで脂肪肝・肝腫瘤・胆石などの所見を指摘された方「要精密検査」と記されたまま、何ヶ月も放置してしまっている方B型・C型肝炎の検査を受けたことがない方(過去に一度も検査を受けていない方は、ぜひご相談ください)生活習慣(食事・運動・飲酒)の改善について具体的なアドバイスを求めている方当院では、問診・血液検査・腹部エコーを組み合わせた精密検査を行い、必要に応じてCT・MRIが対応できる連携病院へのご紹介も行っています。患者さん一人ひとりの状態に合わせて、次のステップを一緒に考えてまいります。『健診の結果を持ってきてください』『紹介状がなくても受診できます』お気軽にお問い合わせ・ご予約ください。かんだクリニック(京都市南区)公式サイトhttps://www.kanda-clinic.jp/