肝血管腫とは?健康診断や人間ドックで腹部超音波検査を受けて、「肝血管腫の疑いがあります」と指摘された経験のある方は少なくないと思います。「血管腫」「腫瘍」という言葉に、思わずドキッとしてしまうかもしれません。しかし私が日々の診療でお伝えしているのは、「まず落ち着いて、正しい情報を知ることが大切です」ということです。肝血管腫とは、肝臓で異常増殖した細い血管が絡み合い、塊になってできる良性の腫瘍です。がんのように周囲へ広がったり、転移したりする性質は持っておらず、身体への影響は一般的に限定的です。人間ドックで見つかる肝臓の所見としては、脂肪肝や肝のう胞に次いで多く、ほとんどは痛みなどの症状もなく、治療も不要です。肝血管腫はどれくらいの頻度で見つかるの?成人の約1〜5%にみられ、発症頻度はやや女性に多い病気です。近年の画像診断技術の向上により、より小さな腫瘍も発見できるようになっており、発見頻度は増加傾向にあります。いずれの年齢にもみられますが、成人になり診断されることが多く、通常は単発ですが、10%に多発することもあります。どんな構造をしているの?肝血管腫は「海綿状血管腫」と「血管内皮腫」の2種類に大きく分けられますが、海綿状血管腫と診断されることがほとんどです。病因は明らかではありませんが、生まれつきの過誤腫(正常組織の異常な混合からなる非癌性の腫瘍)が少しずつ変化して肝血管腫になったという説が現在のところ有力です。肝臓はもともと血管が多い臓器であるため血管腫ができやすく、肝臓にできる腫瘍の半数以上が肝血管腫とされています。がんになることはある?良性腫瘍であり、放っておいてもがん化することはまずないとされています。ただし、肝臓がんとの違いがわかりにくいため、発覚した場合は病院を受診して検査するとよいでしょう。肝血管腫はがんではありません。転移したり命を脅かす性質はありませんが、画像でがん(悪性腫瘍)と似て見えてしまうことがあるため、初回診断時には慎重な鑑別が必要です。肝血管腫の症状と気をつけるべきサイン「健診でひっかかったのに、体はまったく問題ない気がする」という方がほとんどです。それもそのはず、成人が発症する肝血管腫は、ほとんどの場合で無症状です。血液検査をしても正常な数値であり、特に問題となることはありません。自覚症状がないため特別な検査をすることもなく、年に1回の検診や人間ドックなどでたまたま見つかる、というケースがほとんどです。無症状が基本、でも大きくなると…巨大血管腫の場合、きわめてまれに上腹部不快感、右上腹部痛、圧排による閉塞性黄疸(肝臓内外の胆管が悪性腫瘍や結石などで圧排され、黄疸が発症すること)、胃拡張などの症状を来すことがあります。吐き気、満腹感、一般的な疲労感や倦怠感も報告されることがあります。ただし、これらは非特異的な場合が多いです。ごく稀に巨大な血管腫内に大量の血栓ができて、凝固障害などが起こる「カサバッハ・メリット症候群」を合併すると、止血機能が働かなくなるため「青アザ」「鼻血が出やすい」など全身の出血症状が現れます。血液検査ではわからない?肝血管腫は血液検査(肝機能)では異常値を示さないことが大半です。そのため、「血液検査は問題なかったのに…」と安心していたところ、エコーで発見されるケースが多くみられます。肝臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれており、肝臓の細胞自身が痛みを感じにくく、また多少のダメージを受けても再生能力が高いため、初期の段階では異常に気づきにくい臓器です。こんな症状がある場合は早めにご相談を右上腹部に違和感や鈍い痛みがある食後の膨満感・食欲不振が続く青あざが増えた、鼻血が止まりにくいと感じる倦怠感が続いている上記の症状に心当たりがある場合は、症状の原因を含めて消化器内科を受診することをお勧めします。健診エコーで指摘されたときの検査の基本ルール「肝血管腫の疑いあり」と書かれた健診結果を見て、「次に何をすればいいの?」と戸惑われる方も多くいらっしゃいます。当院ではこの流れを丁寧にご説明するよう心がけています。まずは腹部超音波(エコー)検査で確認肝血管腫は健診、人間ドック時の腹部画像検査、特に腹部超音波検査で発見されることが多いです。超音波検査は、非侵襲的で、放射線のリスクがなく、比較的安価というメリットがあります。超音波で肝血管腫は周りの肝臓より白く見えたり、黒く見えたり、同じ色をしていたりとさまざまな見え方をします。肝血管腫の超音波での最大の特徴は、一つのしこりが体の向きや呼吸によって色が様々に変わることです。超音波で判断が難しいときや病変が大きいときはMRIやCTなどの検査を追加で行うこととなります。確定診断には造影MRI・造影CTが有効肝血管腫は手術をする必要がないので正しく診断する必要がありますが、時々肝臓の悪い腫瘍(がん)などと区別がつきにくいことがあります。その区別をつける検査の中でも、ガイドラインでは「造影MRI」が最も確定診断に向いているとされています。MRIではT2強調像とダイナミックMRIの組み合わせで大部分の症例では正確に診断が可能です。造影剤を使用しない単純CTでは肝血管腫の検出率は低いですが、造影CTであれば格段に検出率が上がります。肝血管腫は他の肝臓がんと比べて血流の流れが遅いため、造影剤を使用すると全体がゆっくり染まるのです。なお、海綿状血管腫は肝に発生する良性腫瘍のなかで最も頻度が高く、無症状の小病変には治療は不要であることからも、可能な限り低侵襲の検査で確定診断をつけることが望ましいとされています。慢性肝疾患がある方は注意が必要肝細胞癌の高危険群、あるいは他部位に悪性腫瘍を有する転移性肝癌の高危険群においては、血管腫様高エコー結節を認めても血管腫と診断することはできず、他の画像検査での精査が必要です。B型肝炎・C型肝炎・肝硬変をお持ちの方や、他の部位でがんの治療歴がある方は、必ず消化器内科での精査を受けるようにしてください。肝血管腫と診断されたときの対処法「肝血管腫です」と告げられると、「どうしたらいい?」とご不安になるのは当然です。ここでは、診断後に行うべき対応についてお伝えします。基本は「定期的な経過観察」肝血管腫は無症状であり、経過観察でも変化しないことが多いので、一般的には治療の対象とはなりません。肝血管腫と診断されたら、半年から1年後に再検査を行い、腫瘍の大きさに変化が見られない場合は、1〜2年ごとの検査が推奨されています。超音波検査で10mm以下の肝血管腫が初めて見つかった場合、通常3か月後に超音波検査の再検査を行い大きさに変わりがないかを確認します。大きくなっていない場合はその6か月後、さらに12か月後に超音波検査を行います。もし再検査で大きさの変化などが見られた場合は、CTやMRIなどの精密検査で詳しく調べる必要があります。長期経過観察は意義がある肝血管腫のなかには、長期に観察すると腫瘍径に増大を認める症例が少なからず存在するため、定期的経過観察は有意義と考えられます。日常生活での注意点肝血管腫に対する特効薬はありませんが、脂質の多い食事やアルコールの過剰摂取は肝臓への負担を増やすため、栄養バランスのとれた食事を意識し、過剰なアルコールの摂取は控えましょう。腫瘍の大きさが5センチメートル以下であれば、定期健診で経過を見守りながらスポーツを楽しめるでしょう。腫瘍が10センチメートルを超える場合は、運動強度について医師の指導を受ける必要があります。女性の方へ:妊娠や女性ホルモン療法は肝血管腫増大のリスクになり得ると考えられています。気になる方は担当医にご相談ください。治療が必要になるケースとその注意点肝血管腫の大多数は経過観察のみで問題なく過ごせますが、一定の条件に該当する場合には治療を検討することになります。どのような場合に治療が必要になるのか、あらかじめ知っておくと安心です。治療が検討される主な状況治療の対象となった原因をみると、最も多かったのは臨床症状の発現(主に腹痛や腹部膨満感)でした。腫瘍径が10cmを超えるような巨大な血管腫のほうが有意に腹痛の発現が多かったとされています。直径10cm以上の血管腫は巨大肝血管腫とされ、10cm以上の有症状例に対しては切除適応があるとされます。一方、5〜10cmの血管腫の患者の多くは無症状であり、正しく診断できれば経過観察を基本とすべきです。巨大な肝血管腫ができると血管腫内に血栓が数多くでき、「カサバッハ・メリット症候群」を合併することがあります。血液凝固異常になることで出血が止まりにくくなり、鼻血・血便など全身の出血症状が見られるようになる疾患です。脳内出血が起きれば生命を脅かしますので、早めに治療すべきです。主な治療法の種類手術(肝切除術・腫瘍摘出術):治療法は手術(肝切除術あるいは腫瘍摘出術)が最も多く行われており、手術成績は良好であるとの報告が多いです。カテーテル手術(肝動脈塞栓術):足の付け根からカテーテル(細い管)を入れて肝動脈まで進め、血管を塞ぐ物質を注入して、肝動脈から肝血管腫に流れる血流を止める方法です。主に肝血管腫が破裂した際の緊急応急処置や、カサバッハ・メリット症候群の方に行います。放射線治療:放射線治療では症状の改善に加えて、腫瘍のサイズの縮小が報告されています。逃してはいけない緊急サイン自然破裂による腹腔内出血は10cmを超えるような大きな血管腫のほうが、小さな血管腫に比べて有意に多い傾向にあります。巨大な血管腫あるいは増大傾向にある血管腫では破裂の危険性があることを念頭において、経過を追う必要があります。急激な腹痛・貧血症状・出血傾向を感じた際は、すぐに医療機関を受診してください。肝血管腫とうまく付き合うための生活習慣の注意点肝血管腫があると診断されると、「何か生活で変えるべきことがあるか」と気になる方が多くいらっしゃいます。基本的に特別な制限は必要ありませんが、肝臓全体の健康を守る観点から、意識していただきたいことがあります。食事と飲酒について基本的に薬や食事制限は不要です。ただし、大きさや他の病気がある場合は医師の指示に従ってください。アルコールは肝臓に直接負担をかけます。肝血管腫の増大との直接的な関連は現在のところ明確ではありませんが、肝臓全体の健康を守るために過度な飲酒は控えることが望ましいです。緑黄色野菜・食物繊維を意識したバランスのよい食生活を心がけましょう。運動とスポーツについてアメリカンフットボールやラグビー、格闘技など接触の多いコンタクト系のスポーツで身体に衝撃が加わると、肥大した肝血管腫の破裂や血管からの出血リスクが増加します。腫瘍が小さく無症状であれば、ウォーキングや水泳などの有酸素運動は問題ありません。腫瘍が大きい場合は、運動の種類や強度について医師と相談のうえ決めてください。女性ホルモンとの関係について自覚症状があり、かつ大きい肝血管腫を指摘されている場合は、女性ホルモン補充療法やピルの中断が推奨されています。妊娠中もしくは妊娠計画中の女性は、定期的に検診を受けて医師の指導を受けてください。妊娠中は女性ホルモンの一種であるエストロゲンの分泌量が増加するため、肝血管腫が増大する可能性があります。定期検診は必ず続けること肝臓の病気は自覚症状が出にくいため、定期的な検査で体の状態を把握することが大切です。自己判断はせず、医師の指示に従い、半年に一度など定期的な検査を受けるようにしましょう。よくあるご質問と当院からの回答「肝血管腫です」と言われた後に患者さんからよく受ける質問をまとめました。「経過観察って、放置でいいということですか?」そうではありません。経過観察とは、担当医と一定の間隔で画像検査を行い、変化がないかをしっかり確認し続けることです。基本的に良性ですが、まれに他の病気との鑑別が必要になることがあります。放置せず、定期的な検査で見守ることが安心につながります。定期的に顔を見せに来ていただくことを、当院では大切にしています。「大きさはどうなったら病院に行けばいい?」小さくて変化のない血管腫は1年に1回のエコー検査で十分です。一方、形や大きさに変化があった場合は、3〜6か月ごとの経過観察が必要になることもあります。「前回より大きくなった気がする」「症状が出てきた」と感じたら、次の定期受診を待たずにご来院ください。「肝血管腫のせいでストレスがたまっています…」ストレスと肝血管腫の間に直接的な因果関係はありません。肝血管腫は体質や血管の成り立ちに関係しているとされ、生活習慣やストレスが原因で大きくなるという明確なエビデンスはありません。過度に心配しすぎず、医師と継続的にコミュニケーションをとることで、多くの方は不安なく日常生活を送られています。気になることはいつでも遠慮なくお話しください。まとめ(総括)健診で「肝血管腫」と指摘されたとき、まず知っておいていただきたい重要なポイントを整理します。肝血管腫は良性の腫瘍であり、がん化することはまずありません。多くは痛みなどの症状もなく、治療も不要です。肝血管腫は良性の腫瘍ですが、偶然見つかったものも含めて、画像で経過を追跡することが推奨されています。大きくなる割合は数%程度と報告されており、サイズが大きくなる可能性は低いです。ほとんどの肝血管腫は経過観察で良いのですが、徐々に大きくなったり、肝臓がんとの鑑別が難しかったりするケースもありますので、健康診断などでご指摘を受けた場合には一度受診することが大切です。肝血管腫の確定診断に最も信頼性の高い検査法は、造影検査を含むMRIです。小さな腫瘍や典型的な所見であれば腹部エコーで追跡することも多くあります。治療が必要になるのは、腫瘍が大きい・症状がある・増大傾向にある・がんとの鑑別が困難といった特定の条件に限られます。日常生活は過度に制限する必要はありませんが、アルコールの過剰摂取を避けること、女性ホルモンとの関係、激しいコンタクトスポーツへの注意は念頭に置いてください。「定期検査を続けること」が、肝血管腫と安全に付き合うための最大の柱です。自己判断で受診をやめることは避けてください。「良性だから大丈夫」という言葉を鵜呑みにして、その後の経過観察をおろそかにするのではなく、専門家と一緒に「見守り続ける」姿勢が、長い目でみて最も安心につながります。当院について当院(かんだクリニック・京都市南区)は、内科・消化器内科を専門とするクリニックです。腹部超音波検査(エコー)を院内で実施しており、健診で「肝血管腫の疑い」と指摘された方の精密検査・経過観察を、地域の皆さまに寄り添いながらお受けしています。当院の診療の特徴腹部超音波検査を院内で実施し、まず丁寧な画像評価を行います検査結果はわかりやすくご説明し、次のステップを一緒に考えます造影MRIや造影CTが必要な場合は、連携する医療機関をご紹介します慢性肝疾患(B型・C型肝炎、脂肪肝、肝硬変など)の管理も同時に対応可能です経過観察が必要な方には、適切な受診間隔で継続的なフォローを行いますこんな方はお気軽にご相談ください健診や人間ドックで「肝血管腫の疑い」「精密検査が必要」と言われた方以前から肝血管腫と言われているが、どこで経過観察すればよいかわからない方肝臓の数値が気になる、飲酒習慣があって肝臓が心配な方家族に肝臓の病気がある方受診の流れ「健診結果を持参してご来院いただくだけで構いません」と当院ではお伝えしています。初診時は問診と腹部エコー検査を行い、必要に応じて血液検査なども組み合わせながら、患者さんにとって最もわかりやすい説明を心がけています。「難しいことはよくわからないが、ちゃんと診てもらいたい」という方こそ、ぜひ一度ご来院ください。