
胃がんは、日本で多いがんの一つです。
2019年には、約12万4千人が診断され、2020年には約4万2千人が死亡しました。
胃がんの死亡率は、減少傾向にありますが、まだ高い水準です。
胃がんは、早期に発見できれば治療の成功率も高くなります。
しかし、初期にはほとんど症状がないため、発見が遅れてしまうことが多いのです。
胃がんの原因を知り、そして定期的に検査を受けることが大切です。
それでは、胃がんの原因と検査方法について詳しく見ていきましょう。
胃がんの定義
胃がんは胃の粘膜層がん細胞に変異して形成される悪性腫瘍です。
胃の壁の内側を覆う粘膜の細胞が何らかの原因でがん細胞になり、無秩序に増えていくことにより発生します。
早期胃がんは、がんが内側の2層(粘膜・粘膜下層)にとどまっているものを指し、進行胃がんは、3層目(固有筋層)より深く入っているものを指します。
胃がんは、進行が比較的遅いことが特徴です。
ただし、スキルス胃がんなど一部のがんは進行が早いため、早期発見と診断が不可欠です。
最も一般的なタイプは、腺がんと呼ばれるもので、胃の内壁に存在する腺から発生します。
腺がん以外にも、平滑筋細胞や神経細胞から発生するケースもあります。
胃がんの原因
胃がんの発生率は年齢、地域、食生活など多くの要因に影響されます。
例えば、胃がんの患者は、日本海側が多いというデータもあります。
ただし、原因はまだ完全に解明されていはいません。
胃がんの発生には、複数の要因が複雑に関係していると考えられています。
主な要因として、下の5つがあげられています。
ヘリコバクター・ピロリ菌
食生活
遺伝
喫煙
年齢・性別
この他に、過度なアルコール摂取、長時間のストレスなども胃がんの原因となり得ます。
これらの原因を理解し、健康的な生活習慣を心掛けることで、胃がんのリスクを減らすことが可能です。
そのうえで、定期的に検診を受けることが重要です。
ヘリコバクター・ピロリ菌

ヘリコバクター・ピロリ菌(以下、ピロリ菌)は、胃の粘膜に感染する細菌の一種です。
日本では、衛生環境が改善したことにより感染の数は減少しています。
家族間や食事などで感染する可能性がありますが、感染経路は明確には証明されていません。
ピロリ菌に感染すると、胃の粘膜が炎症を起こし、慢性胃炎や胃潰瘍などの胃の病気を引き起こす可能性があります。
ピロリ菌による慢性胃炎は、胃がんが発生しやすい状態になってしまいます。
ピロリ菌に感染しているか調べる方法は、呼気検査や血液検査などです。
もし感染していても、抗生物質などの薬で除菌が可能です。
ただし、胃がんは、ピロリ菌の感染だけでなく、他の要因によっても発生する可能性があります。
そのため、除菌後も胃の状態をチェックすることが大切です。
食生活
塩分摂取量の多い方や漬物や塩辛などの塩分濃度の高い食べ物をとる方は、胃がんのリスクが高まることが報告されています。
熱すぎる飲み物や食べ物は、発がん物質の作用を促進したり、発癌遺伝子の変異を引き起こす可能性があります。
熱すぎるものは、胃粘膜を傷つけるリスクがあるからです。
お茶や味噌汁など、熱いものを飲むときには、十分に注意しましょう。
野菜や果物には、ビタミンCやカロテノイドなどの抗酸化物質が含まれています。
これらは、胃粘膜を保護したり、発がん物質を無害化する働きがあります。
疫学研究において、胃発癌を抑制することが示されているため野菜・果物の摂取はおすすめです。
食生活の改善は、胃がんだけでなく他のがんや病気の予防にも有効です。
遺伝
胃がんに関係する遺伝子変異の一つが、CDH1遺伝子変異です。
CDH1遺伝子は、細胞同士をくっつける役割をしています。
遺伝子に変異があると、細胞同士の結合が弱くなり、増殖や浸潤が発生しやすくなります。
その結果、胃がんの発症につながるのです。
CDH1遺伝子変異を持つ人は、かなりの確率で胃がんになりやすいと言われています。
そして、CDH1遺伝子変異により発症する胃がんの一種が、スキルス胃がんです。
スキルス胃がんは早期発見が難しく、進行すると転移しやすいため、予後が悪いと言われています。
胃がんは、遺伝的な要素が高いとは言えません。
ただし、家族にスキルス胃がん、若年性胃がんの既往歴がある場合は、注意が必要です。
喫煙
喫煙は、がんのリスク要因です。
日本人男性で喫煙者は非喫煙者に比べて、1.6倍も胃がんを発症するリスクが高いとされています。
喫煙年数が長く、1日の喫煙本数が多いほど、胃がんになりやすい傾向があります。
なぜなら喫煙することで、たばこの煙に含まれる有害な物質が胃に入り込み、胃の細胞の遺伝子を傷つけてしまうからです。
その結果、細胞の分裂や死滅が正常に行われなくなり、がん細胞に変わってしまう可能性があります。
また、喫煙は胃粘膜を刺激し、ピロリ菌感染者では萎縮性胃炎や腫瘍化を促進します。
喫煙をやめることは、胃がんの予防に効果的です。
胃がんのリスクが徐々に低下し、10年以上経過すると非喫煙者とほぼ同じレベルになります。
年齢・性別
胃がんの発生率は年齢と性別によって異なります。
2019年統計によると一般的に、年齢が高くなるほど、また男性よりも女性よりも胃がんになりやすい傾向があります。
日本では、男性の胃がん発生率は女性の約2倍です。
また、60歳以上の高齢者に多く見られます。
これは、男性の方が喫煙や飲酒などの生活習慣によるリスク要因が多いこと、ピロリ菌感染率が高いことなどが影響していると考えられます。
年齢や性別による胃がんのリスクは変えられません。
ただし、定期的に胃がん検診を受けることで、早期発見・早期治療を目指せます。
胃がんリスクチェック
「胃がんリスクチェック」というサービスがあるのを知っていますか?
国立がん研究センターが20年間にわたり10万人のデータを対象に行った調査研究の結果をもとに作られています。
このサービスは、40歳から69歳の男女が対象になります。
WEBで利用ができ、プリントアウトして自分で計算することも可能です。
年齢、性別、喫煙習慣、食習慣(塩分)、胃がんの家族歴、血液検査によるヘリコバクター・ピロリ感染および慢性胃炎の有無などの情報から、今後10年間で胃がんに罹る確率を算出します。
このサービスは、あくまで胃がんの予防や早期発見に役立つ情報を提供するものです。
診断や治療を行うものではないので、注意してください。
興味がある方は是非、検診を受けるための参考にしてみてください。➝https://epi.ncc.go.jp/riskcheck/gastric/
胃がんリスクチェック|国立がん研究センター
胃がんの検査方法
胃がんの検査方法は、大きく分けて3つの目的に応じて行われます。
胃がんの有無や早期発見が目的
進行度や転移の有無が目的
手術や治療法の選択が目的
それぞれの検査について、わかりやすく説明します。
胃がんの有無や早期発見を目的とした検査
胃がんの有無や早期発見を目的とした検査には、以下のような種類があります。
それぞれメリットやデメリットがあります。
自分に合った検査を選ぶためには、医師や看護師に相談することが大切です。
胃内視鏡検査
胃の中を細いカメラで見る検査です。
胃の中を直接見られるので、病変部分を確認し、その場で細胞や組織を採取できます。
これにより、胃がんの有無や種類を正確に診断できます。
他の検査方法では、細胞や組織を採取することはできません。
バリウム検査
バリウム液を飲んでX線撮影し、胃の形状や粘膜の状態をチェックする検査になります。
痛みが少なく、手軽に行えることが大きなメリットです。
ただし、胃がんを見逃すこともあります。
また、バリウムは味や食感が独特で、飲みにくいと感じる人もいます。
飲んだ後のアレルギー症状や、検査後の便秘にも注意しましょう。
血液検査と腫瘍マーカー
CEAやCA19-9など、血液中にあるがんのマーカーを測定する検査です。
ただし、他の要因で上昇することもあるため、この検査単独では診断できません。
ABC検診
血液中にあるヘリコバクター・ピロリという菌やペプシノーゲンというタンパク質の量を調べる検査です。
これらの数値から、胃がんになりやすい人を見つけられます。
アミノインデックス検査
血液中にあるアミノ酸という成分のバランスを調べる検査です。
アミノ酸のバランスが悪いと、胃がんになりやすい人を見つけられます。
胃がんの進行度や転移の有無を目的とした検査
胃がんの進行度や転移の有無を目的とした検査には、CT検査、MRI検査、PET検査などがあります。
これらの検査は、胃がんの病期(ステージ)を診断するために重要な情報になります。
CT検査
X線を用いて体内の断面像を撮影し、胃壁や周囲の臓器・リンパ節などにがんが広がっていないかを調べる方法です。
MRI検査
強力な磁場と電波を用いて体内の断面像を撮影し、CT検査では見えにくい細かい部分にがんが広がっていないかを調べる方法です。
PET検査
放射性フッ素を付加したブドウ糖液を注射して、がん細胞が集まる部分を特殊なカメラで撮影する方法です。
胃がんの手術や治療法の選択を目的とした検査
胃がんの手術や治療法の選択を目的とした検査には、注腸・大腸内視鏡検査、審査腹腔鏡などがあります。
これらの検査は、胃がんの進行度や治療法の適応を判断するために重要です。
注腸検査
大腸の胃のすぐ近くを通っている部分にがんが広がっていないか、腹膜播種によって大腸が狭くなっていないかなどを調べるために行われる検査です。
肛門からバリウムと空気を注入し、X線写真を撮ります。
大腸内視鏡検査
注腸検査と同じ目的で行われることがあります。
肛門から内視鏡を挿入し、大腸の内側を観察します。
審査腹腔鏡
手術前に行われることがあります。
おへその近くに小さな穴を開けて、カメラ付きの管(腹腔鏡)を挿入する検査です。
お腹の中を直接見て、胃や他の臓器にがんが広がっていないか、リンパ節や腹膜にがん細胞が付着していないかなどを調べます。
必要に応じて、小さな器具を使って組織を採取したり、小さながんを切除したりできます。
胃がんは早期発見と予防が大切
胃がんは一部進行が早いものもありますが、一般的には進行が遅い病気です。
しかし、ステージ4に進行すると全身に転移し、治療が非常に困難になります。
そのため、早期発見と予防が大切です。
胃がんが早期発見された場合は、手術や放射線治療、化学療法などの治療法が有効です。
早期胃がんの5年生存率は約90%以上になります。
胃がんの予防のためには生活習慣の改善が効果的です。
そして、早期発見するためには、定期的な健康診断を受けることが必要です。
【参考サイト】
胃|国立がん研究センター がん統計
胃がんについて|国立がん研究センター
胃がんについて(病態と治療)|国立国際医療研究センター病院
胃がん|東京医科大学病院
胃がん検査|国立がん研究センター
胃がんの原因|知っておきたいがん検診
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